N.S.ハルシャ展ーチャーミングな旅ー
美術史を学んでいる割に、現代アートについて考えるのは苦手だ。
しかし、今回の森美術館で行われたハルシャ展はとても良く、見ていて気持ちの良い展覧会であったと思う。
ハルシャはインドの現代美術を代表する作家で出身地であるマイスールを拠点に活動を行っている。インドの現代美術が初体験な私にとって、ハルシャが作り出す作品はどのようなものなのか想像がつかなかった。フライヤーには、独特な書体で展覧会名が書かれており、たくさんの人々の中に黒い雲が描かれた作品がデザインされている。柔らかく素朴な色合いに親しみを持ち、ハルシャについて知りたくなった。
今回、展覧会ではオーディオガイドがなんと!無料で借りることができる。実は私、人生初経験のオーディオガイド!!毎回借りるくらいなら、その分ミュージアムショップでなんか買おうと思い中々借りる機会がなかった。毎度見かけるものはイヤホンタイプであるような気がしたが、今回の無料ガイドは電話のように耳に機械を直接当てて聞く。すると、片手しか使えなくなるので今度はメモを取るのがめんどくさくなり、ほとんどメモを取らなかった。
なので今回は記憶違いなことが書かれている可能性がありうるのでご了承ください。
ハルシャの特徴として、とにかく人をいっぱい描く。でも一枚の中に同じ人は一人といない。インドでの生活を行うごくごく普通の人々。描かれている人々はなんとなく生活感があって、疲れている雰囲気もある。上の作品は、ハルシャが大切にしているモチーフである「眠る」人々が描かれているが、一人ひとりを見てみると、夫婦で向かい合っていたり、背中を向けていたり。うつ伏せや寝相の悪い人なんかもいておもしろい。中には花瓶と一緒に寝ている人もいる。
掛け布団は透き通っており、となり同士でつながっている。サーモンピンクが優しい。
こちらはフライヤーに使われた≪ここに演説をしに来て≫。よく見ると、ハルシャの遊び心がわかる。確か6年がかりで制作したという大作。本人は大変だった、という感覚はなく、毎日の日課で椅子に座った人を埋めていくという感覚だったそうだ。
作品をクローズアップ。
見ざる言わざる聞かざるハルシャ、日本大好き説が私の中には浮上しており、時折日本を彷彿とさせるモチーフが描きこまれている。
これは・・・DOBくんで、手にしているのはあれか・・。村上隆の作品で有名なあのシリーズのやつか。。(ノーコメントですが)
アーティストも描かれているとキャプションに書かれており、最初はアンディー・ウォーホルなどを想像していたがなんとフリーダ・カーロ!手術や、後遺症の痛みで背骨が悲鳴を上げているときの自画像だ。よく見ていないと見落としそう。メキシコの豊かな大地や太陽のにおいはインドの環境と何か関連性を感じたのかも。カーロは私も大好きな芸術家の一人。
こちらは、靴を脱いで体験する作品。床には一斉に上を見上げる人々。天井には、鏡が設置されていて、上を見上げれば、床の人々とともに空を見上げることができるというしかけ。ハルシャはインドの社会問題や政治問題を作品をとして訴えかけることが多い。めまぐるしく社会が変化していく中でも「空を見上げる」行為は、今も昔も普遍的に変わらない人間の行動であると考えたそうだ。自分も作品の一部になったような気分になる、とても素敵な作品だと思う。
こちら、≪集団結婚式≫という作品の中の一部。背景にうつる富士山は、インド人が訪れる人気のハネムーン地の一つとして、描かれているそうだ。画面いっぱいに集団結婚式で新郎が新婦に首飾りをかけてあげる様子が描かれている。愛おしそうにかけてあげる新郎がいれば、新郎以外のほかの男と手を握って式に臨む訳ありな夫婦も。結婚式という晴れ舞台の中に潜む様々な愛の形や、人間の関係性が伺える。
ハルシャの描き出す人は、素朴で見ていてほっこりする。でも、その中で社会に対する批判などが込められていて力強い。私の中では、早くも2017年行ってよかった展覧会の上位に入っている。おすすめ。
ハルシャもそうだが、森美術館の展覧会がきっかけで、自分の好きなアートの幅が広がった、という経験を何度かしている。一番最初は高校生の頃に行った、確か会田誠の「天才でごめんなさい」展だったっけな。こうやって何年か経っても同じ場所でこうして趣味が続いているのは幸せなことだなぁ。
個人的に、現代アートについて勉強しなければならない状況下にいるので(大学とは関係のないところでそのようなことに)今年は積極的に現代の作家さんの展覧会を見に行きたい。
ハルシャ展 6月11日まで!!