ミュシャ展
新国立美術館で行われている話題のミュシャ展。今回の目玉はスラブ叙事詩。この作品は初見だとミュシャだとは思わないかもしれない。普段私達が目にするミュシャの作風と言えば、輪郭線がはっきりとし、過剰なほどの花や星(六角形の星)に囲まれた女性のポスターだろう。可憐でかわいらしく、グッズもたくさん出ている。芸術作品ではあるが、親しみのあるイラストとも言える。
このような私達がよく知るミュシャの作風は主にパリで制作されたものだ。売れない時代に大女優サラ・ベルナールから抜擢され、ベルナールの出演するポスターを手掛けるようになる。大人気となり多忙な生活を送るミュシャはある時、このような生活から逃れ、自分の故郷のために作品を手掛けたいと考えるようになり、故郷のチェコに戻って制作したのがスラブ叙事詩だ。
展覧会の構成は、入ってすぐにスラブ叙事詩の部屋となり大きな作品に圧倒される。中には、撮影可能なエリアもあり何枚か写真に収めることができた。この部屋を終えると、ミュシャの定番のポスターや、アールヌーヴォー時代の大きな鏡やアクセサリーなんかも展示されている。
ちなみに個人的にはミュシャのポスターでは≪メディア≫が好き。目をカッと開いて少し青ざめたあの表情が謎めいていてよい。考えてみれば、本物のミュシャのポスターを生で見るのは今回が初めてだ。思った以上に実物は大きく、色合いが素敵。
中には、ミュシャの作品が描かれた紙幣なども展示されており、チェコの中でどれほどの偉人であったのかを知ることができる。
縦6メートル、横8メートルの巨大な作品は全部で20作品。これらは全てお城をアトリエにして制作をした。村人をモデルにしそれぞれ衣装を着せてポーズを取らせた。作品に集中するために、家族でさえも面会の時間を予約制にしたという。
初めて展示室に入ったとき、最初に目にしたのは≪原故郷のスラヴ民族≫。これはポスターにも使われている青を基調とした作品だ。この作品が目に入った時、私は胸にこみ上げるものがあり泣きそうになってしまった。体をかがませ、こちらをますぐに見つめる不安そうなスラヴ民族と対照的に両手を上げ、大きく描かれた人物の左右にもこちらを向くスラヴ民族がいる。星はきらきらと美しく光っており静かな時が流れているようだ。
私は、ミュシャの創り出す不安そうな表情が好きなのかもしれない。
ミュシャのスラブ叙事詩の特徴として、誰が主役かは分からないという点が挙げられる。この≪聖アトス山≫という主題を見ても誰にスポットライトが当たっているのかは分からない。先ほど述べたように、ミュシャは村人をモデルにし一人一人の顔の特徴もしっかりと描いている。村人一人一人を丁寧に描くことにより、主題で重要な人物に焦点を当てるのではなく、登場人物全てを平等に描いているのである。実際に、出来上がった作品を村人が見ると、自分の顔や家族の顔を探すのが楽しかったようである。
ミュシャは教会の天井画にも村人を沢山描いている。ミュシャにとって歴史ができていくのは、村人(農民)あっての文明、文化があるからであると考えている。このようなことから、歴史上の偉人よりも一般人を被写体として選んでいるのである。
ちなみに手前の三つ編みの女性はミュシャの実際の娘だそうだ。
ミュシャは後にナチスからスラヴ叙事詩を制作したことによって、愛国者要注意人物としてマークされ、しまいには牢屋に入れられてしまう。そこでの独房生活で衰弱し、亡くなってしまうのである。
作家の生い立ちを知った上でこの作品を見上げていると感慨深い。また、国外で展示されること自体が初めてということもあって、今後この作品が日本問わず、もっといろんな人に見てもらいたいとも思う。
私の知らないミュシャが満載の展覧会であった。
おまけ
同時に開催されている国展では高校時代の恩師の作品が展示されている。(ゴールデンウィーク中に上京されるということでその時期に合わせてミュシャ展とセットで行ったらとんでもなく美術館が混んでいた。本当は午後にやよいちゃんを観に行く予定だったのだが、混みすぎており、結局大学帰りにまた今度行くことにした。あの列に並ぶ気力がなかった・・・。)高校時代から大学は美術史の学べる大学と考えていた時からお世話になっていた先生。この先生から松井冬子やワカマツカオリ、中村佑介を教えてもらった現代アートやイラストが好きな先生である。授業でもイラストの授業なんかもあり、振り返れば珍しい授業だったのかもしれない。ちなみに先生は美術の先生と同時に剣道部の顧問でもあり、筆と竹刀の二刀流である。
実際に先生の作風はイラスト風ではないが、すごくオシャレな絵を描く。遠くから見てもどれが先生の絵かすぐに分かってしまうほど特徴的だ。
大学での近況などを話したが、先生も元気そうで何よりだった。地元を離れてもこうして高校時代の先生に会えるのは実は幸せなことなのかもしれない。
ミュシャややよいちゃんに比べると空いているので、ついでにでも観に行ってあげてください。私はDMを持っていたので無料だったが、大学生以下は元々無料だそうだ。