オルセーのナビ派展 美の預言者たちーささやきとざわめき
3月15日まで東京駅付近の美術館は学生ウィークを催しており、大学生は無料で美術館に入ることができます。学生万歳!
個人的に美術館の半券を集めているので、無料となると半券がもらえないのではないか、と心配していた。というのも、過去に無料日に行ったとある美術館では、チケットなしで来場者が自由に出入りしていた場面に遭遇したことがあったからである。今回は、無料ウィーク用の半券も用意されており、半券集めをしている人にはありがたかった。
ネットで調べてもこんな小さなことは出てこないが、(そりゃそうか)半券を集めている人って意外にいると思う。
そんなわけで学生ウィークを狙って前から気になっていた三菱一号館美術館で開催中の「オルセーのナビ派展」に行ってきた。
パステルカラーのかわいらしい色合いはまさに春の展覧会という雰囲気。
ポスターのキャッチコピー「はじめまして、ナビ派です。」と言っているとおり、日本で初めてナビ派をクローズアップした展覧会だ。
三菱一号館は規模はそれほど大きな美術館ではないが、毎回充実した企画で私が注目している美術館の一つ。
最近、一号館の館長である高橋明也先生の本を読み直したところだったので美術館側の意図を汲み取りたいと考えながら、いつもとは違う気持ちで東京駅を降りたら、美術館と逆方向に向かってしまった。
この本は、高橋先生流の学芸員の仕事とは何か、について書かれているのだが、学芸員の授業を取った後で読み返すと一層おもしろい。
先生の手がけた企画展についても触れられており、中にはヴァロットン展のことも書かれてた。あの時見とけば良かったな~と思っていたら、今回のナビ派展に展示されていると行きの電車で知った。フライヤーに掲載されたあの《ボール》も展示されているという!鴨居怜の時といい、私はたまにこういったラッキーなことがちょくちょく起こる。
分かりやすく、物腰が柔らかな文体で書かれていて買ってよかった!と思う私の一冊。
さて、肝心の企画展だが、会場内には平日の昼間であったがそこそこ人がいた。
最初の部屋にはナビ派の創設者と言われているゴーギャンの作品が。ナビ派という名前しか知らなかった私はここで初めてその時代の集まりだと知る。
全体的にパステルカラーで柔らかい色合いの作品が多かったような気がする。ナビ派の中には、フォーヴィズムの画風を15年先取りしていたエドゥアール・ヴュイヤールや、アールヌーボーの先駆者だと言われているモーリス・ドニなどがおり、かなり当時では最先端なことをしていたんだなあ。
そして日本の影響もかなり受けていることを展覧会では紹介していた。屏風に描かれた作品や、歌川広重を模倣した雨の表現などここでも日本の表現や文化を取り入れているだなんて嬉しい。ピエール・ボナールは「日本かぶれのナビ」だなんて言われていたほど。
印象派だってアールヌーボーだって、ナビ派だって日本の美術を認めてこうして何千キロ、何万キロも離れた土地で作品を生み出している。
私はそんな巨匠たちが愛した日本美術史をもっと勉強していかねば、と思った。
そして、お目当てのヴァロットンだが、一言で言うと・・・とても良かった。他のナビ派の作風はほんわりとした筆跡だが、ヴァロットンはパステルカラーをべた塗りで塗る。はっきりと塗ったパステルピンクのドレスは華やかでかわいらしかった。
中でも、《室内、戸棚を探る青い服の女性》に描かれている壁に貼られた絵がとても気になった。人物像なのは分かるのだが、髪形が耳の上にお団子を二つつけたような髪が日本の神話のヤマトタケルみたいだなぁと思った。図録を見ても特に何も書かれていなかったが、アイテム一つ一つをとっても意味があるだろうからぜひとも真相を知りたい。といって、何の変哲もないおじさんだったりして。
違う部屋では、《ボール》も見れて大満足。ボールを追いかける子どもに対し、不自然なほど離れている子どもの親。この距離感といい、人の温かみが一切感じられないこの作品はまさに「冷たい炎の画家」が描いた作品だ。
ミュージアムショップでは、アイフォンに貼るナビ派のシールが売られていて買おうか悩みまくったがやめた。デザインがとても好きだったのだけれど、私はしょっちゅうアイフォンを床に落とすのでこのシールでは携帯を守りきれないだろうと泣く泣く諦めた。
図録も2000円以上した。普段は、本当に欲しかったり、研究テーマに関する時だけ買うようにしている。2000円ほどであれだけの膨大な情報が載っているのはかなりお得だと思うのだが、毎回2000円以上を出すわけにはいかない。大学生の懐はさみしい。
しかし、本当に欲しいものはある日、ばったり出会うことが私の中ではよくあるのでその日を信じ、美術館を後にした。
かつて、美術館ではすでに取り扱っておらず、サイトで検索すると、定価の数倍の値段で売られていたとある図録を、ふらりと立ち寄ったブッ●オフで800円でゲットしたことがあるという体験があったのでナビ派展の図録もこのようにめぐり合えたらと思う。(ちなみに現在奇跡の偶然を待っている図録ナンバー1はクラーナハ展である。)
こうして、一号館を出て、東京駅付近のビルの地下にある、700円のあったかくて鰹節が効いたおうどんをすすり、午後は東京ステーションギャラリーへ。
次回は「パロディ展」の感想です。