生誕100年いわさきちひろ、絵描きです。―東京ステーションギャラリー
ステーションギャラリーでは前回が竹久夢二、今回はいわさきちひろとイラストレーターで商業芸術の中で活躍された人々が連続して企画されていた(次回は横山華山と心機一転)。こうして連続して展覧会に訪れると、自分の中の歴史がつながっていって非常におもしろい。
最近は、日比谷図書館で「大正イマジュリィ展」や、上野の松坂屋で「内藤ルネ展」が開かれていて、様々な場所でイラストレーターや絵本作家の変遷を見てきたけれど、今回のいわさきちひろが一番本人に対するイメージが変わったかも。
私の場合、子どもの頃はいわさきちひろの本や絵を見る機会はあまりなかった。だから、絵を想像するとはっきりとはせずに、ちひろ本人像もつかめていなかったから、今回の展覧会に行ったことで、ちひろにすごく興味を持つようになった。子どもや赤ちゃんの絶妙なポーズを捉えるといった従来のイメージは強固なものになって、ちひろは新聞の挿絵を描いていたことや、幼少期は裕福な暮らしをしていて、自主制を尊重するような学校で学んでいたことなど意外な面も多々あった。
展覧会場では、ちひろの絵本の原画を見ることはもちろんのこと、当時使用していた私物や(ちひろが裁縫の学校に通っていたということで、手作りのとってもかわいらしいワンピースがあります!)周りをとりまく画家や童画作家の作品も見ることができる。一番驚いたのが、ちひろは元々画家志望だったという話。岡田三郎助に絵を習っていたという。三郎助といえば、裸婦のイメージが強いからちひろのイメージと大分異なった。後に中谷泰にも絵を習い、画風が泰に影響されてはいくものの、意外に画壇との交流があったことにびっくり。後に、女性画家公募団体の朱葉会に出品もしているし。中には、自らヌードモデルを務めた作品もあって意外のひとことに尽きるのが前半の展示構成。
画壇との交流も行いながら、童画界でも着々と自分のキャリアを積んでいったちひろ。
以前から、いわさきちひろと言えば、絵本作家のイメージしかなかったのだが、実は絵本以外にもデパートや醤油の宣伝ポスターに、雑誌の表紙など幅広い分野で活躍されている。子どもを生涯のテーマとして描き続ける一方で、若い女性や母を描いたものもあり、子どもだけでなく働いている人たちにも共感してほしいという願いをずっと持ち続けていたそう。
展示会場を下って後半の展示室に入ると、自由にちひろの本を靴を脱いで読むエリアがあったり、絵本の挿絵のイメージスケッチや習作が見れたりもする。中でも一番驚いたのが、ちひろは水彩やクレヨンを用いて制作するが、パステルによって輪郭線が用いられるのは1970年の一年間だけなのだそう。もっと、パステルの輪郭あるでしょ!と思いながら作品を見て回ったが、本当に1970年の作品だけパステルの輪郭だった・・・・・。他の年代のものは鉛筆だったり水彩だったりするんだよね・・・・
そんなパステルの輪郭に着想を促した作品も展示されていて意外の一言に尽きるのでぜひ。
最後の方には、ちひろの作品を大きく伸ばしえてみるという試みで、等身大(それ以上の)の作品が展示されていた。ちひろ自体は大きな紙に描くことはなかったし、私達もちひろの作品を手元で見るときには、子どもも持てるほどの大きさの本くらいの感覚しかなかった。壁一面の大きさの作品を見ることで、印象もガラッと変わり、ちひろの子どもの世界への臨場感が感じられる。
当たり前に思っていたサイズ感をあえて変えてみると作品の見方も違ってくるんだな。
会場内のお客さんの層は子ども連れはその時はいなかった。私の母親世代の女性、中年層が多かった。自分の小さい時や、子どもに読み聞かせをしていたことを懐かしく思いながら見ていたのかもしれない。
ちひろが描く水彩やパステルの滲みからできる子どもの卓越した描写だけじゃくなく、戦争を経験したことも辛さや平和を願う訴えが交差して、切なくもなる展覧会だった。
9月9日まで。東京ステーションギャラリーにて。